バーニア効果に基づく高精度距離計測

 近年、無線通信機能を備えた小型センサ端末により構成されるワイヤレスセンサネットワークシステム(WSNs)に関する研究が盛んに行われています。WSNsは、温度や湿度などの環境モニタリング、人物などの移動体の位置追跡を行うオブジェクトトラッキングなど、様々な分野への応用が見込まれています。こうしたシステムの運用には、構成要素であるセンサ端末の位置情報が不可欠です。
 WSNsは小型・軽量・小電力・安価な端末といった特長的な制約を持っており、この枠組みの中で端末位置推定を行うことは難しく、現在も様々な研究がなされています。端末位置推定の方法のひとつに、端末同士の通信に使われる電波(RF)の伝播時間(TOF)を計測し、そこから算出した端末間距離を元に定位を行う方法があります。
 RFは光の速さで伝わるため、安価な端末を用いて低分解能な計測を行った場合には量子化誤差が非常に大きくなってしまいます。ところで、物の長さを比較的簡便に高精度で測ることができるノギス(Vernier caliper)という器具があります。ノギスは、目盛幅の異なる主尺と副尺を組み合わせることで、目盛幅の差を新しい分解能として計測する器具です。この原理をバーニア効果と呼びます。
 当研究室ではこのバーニア効果を応用した新たな端末間高精度距離計測技術を開発しています。消費電力とコストを抑えるために低分解能の端末を用いつつ、擬似ランダム信号の一種であるM系列符号と先述のバーニア効果を組み合わせることで、高精度なTOF計測を行うための計測理論を実証することを目指しています。